SEED FREEDOM シードフリーダムとは イベント レポート リンク

ヘレン博士オリジナル

プレゼンテーション資料

世界の農と食

大規模な産業的農業から持続可能な農業へ

ハンス・ルドルフ・ヘレン博士

(ミレニアム研究所 代表・バイオビジョン財団 代表)

 

今日の農と食に関する課題

 

なぜ世界には必要以上の食料があるにもかかわらず飢餓が無くならないのか。それについて飢餓と貧困の原因と、その解決策について触れたいと思います。

 

 

上記の内容は、IAASTD(開発のための農業科学技術国際評価)報告書に詳細に書かれており、今日はそれを基にお話しします。この報告書は農業に関する報告書の母体のようなもので、国連機関によって委託され、2009 年に完成しました。日本を含む世界中から約400 人分もの報告書が集められ、6 年かけて完成し、2,000 ページにも及ぶものです。この報告書は、2050 年までに全人類を賄える食料を生産するため、農業システムの変革の必要性、そして食料生産と消費と健康の関連性を示しています。

では3 つの側面、つまり環境的、社会的、経済的に持続可能な開発を推進していくために、農業はどのような方向性を持つべきでしょうか?

皆さんも予測されているかもしれませんが、このままの状態が続くと、今から50 年、100 年先には、気候変動、人口増加に伴う需要増大、社会的不平等の拡大、自然資源やエネルギーの枯渇など、私たちは新たな大きな問題を抱えることになります。

今日の農業に関する課題として、まず、現在世界中で8億人もの人が栄養不良の状態であるにもかかわらず、同時にその約2 倍にあたる15 億人もの人が肥満状態にあるということが挙げられます。そしてそれは人間の健康に直接つながっていきます。

次に、現在の産業的農業は作物生産時により多くのエネルギーを消費することです。エネルギーを10 カロリー消費しても、生産量は1 カロリーにしかなりません。これが農業におけるエネルギー問題を引き起こしています。そして生産時に多くのエネルギーを消費することで、多くの二酸化炭素や温室効果ガスを発生させ、これが気候変動につながります。例えば、有機農業や自然農法のような環境保全型農業では、エネルギー消費量1 カロリーにつき、10~ 30 カロリーもの生産量を生み出すのです。どの農業形態に変えれば、エネルギー問題や気候変動問題を解決できるのかは明らかです。

また現在のシステムでは、土壌劣化や水資源の浪費、生物多様性の損失などによる自然資源に関わる問題も生み出しています。全ての多様性が環境、再生力、健康の面においても必要になってきます。さらに、農村地域の過疎化や都市部への人口流入などの社会問題をも生み出しているのです。しかしこの問題は消費者、特に都市部に住む人々が安い価格を求めることで起きています。すなわち、生産者がいくら質の高い作物を生産したいと思っていても、消費者はその価値が分からないため、それに見合った金額を支払おうとしないのです。

 

 

現在世界では、1日1 人当たり4,600キロカロリー分の食料が生産されています。一般的に、健康な生活を送るのに必要な平均摂取カロリーは約2,300キロカロリーですから、2 倍もの食料が生産されているのです。しかも今日生産されているその多くは、中身のないカロリーばかりで、これらは品質が悪く、栄養も少ないということです。そして私たちも生産されている全ての食料を食べているわけではなく、その半分のみを食べています。つまり半分は廃棄しているということになります。先進国では食料の半分以上が家庭内で廃棄されており、開発途上国では収穫後の保管設備や市場までの道路が整備されていないことが原因となっています。

 

 

現在の農業システムは、安全性や栄養面を重視せず、利益のみ追い求める巨大ビジネスと化しているため、自然のエコシステムを人工的なものに置き換えて作物を生産しています。秀明自然農法などに見られる、自然の力のみで作物を育てる農法では、水や気候、農地内外の生物多様性など自然から与えられたもののみを使用し、土壌を再生して、作物が生産されています。しかし、現代の産業的農業ではそういった自然からの恵みを農薬や化学肥料といった人工的なものに置き換えることによって、費用も掛かり、自然環境や人間の健康をも破壊してしまうのです。

 

 

この図が示すように、穀物と肉類の生産増加と正比例して、水や農薬、化学肥料使用量も増加していることが分かります。ということは、食料を生産すればするほどこれらの要素も投入することになり、持続可能なシステムではないことは明らかです。また遺伝子組み換え作物(GMO)が

導入された1990 年代以降、除草剤を含む農薬の使用は増え続けています。農薬や化学肥料の使用を減らすための遺伝子組み換え作物の導入も、実際のところ、何かを投入しなければ生産ができないということが判明したことになります。

 

 

本来地球は、あらゆる側面において再生させる力を持っていますが、私たちはその地球の許容量をはるかに超えるような、短絡的な過剰生産を行っています。グラフの緑色の部分は、私たち地球上に住む生命体が、消費可能な範囲を示していますが、生物多様性の損失、窒素肥料の使用量、気候変動は大幅に許容量を超えています。

私たちが今しなければならないことは、現在のシステムをよく考察し、今日の直線的なアプローチではなく、より体系的なアプローチを取ることです。すなわち、ある問題に対して一つの側面からの解決策を講じるのではなく、あらゆる側面に対する影響を考慮した解決策を見いだす必要性があります。さもなければ、一つの問題を解決したとしても、それによってまた新たな問題が発生してしまいます。つまり、短期的で直線的な思考が現在の危機的状況をもたらしたといえます。私たちは多次元的アプローチ、もしくは最低でも環境、社会、経済に対する3次元アプローチに転換しなければいけません。いい統治とは基本的に政治家が政策を決める際、その政策に関する全ての側面を考慮することなのです。

では、私たちはどのようにして現在の慣行農法から生産性と持続可能性を兼ね備えた農法に移行できるのでしょうか?

 

 

 

持続可能な農業への移行

 

 

移行できる唯一の方法としては消費者の関与が不可欠だと思います。ここにいる皆さん一人ひとりが生産者を助け、このシステムを変える役割を担う一部なのです。つまり、現在の傾向とは全く違いますが、皆さん消費者が肉類や乳製品を多く摂取する食生活から、野菜や果実を中心とする食生活に変えていくのです。

人々の求めるものが変われば、生産者は持続可能な生産方法に転換することができます。例えば作物の周りに害虫の好む植物と好まない植物を植え、コントロールするのです。この方法でいくと、農薬や肥料も必要なく、余分な水も使わず、また害虫を傷つけることもなく、完全に自然な方法で作物を育てることができます。周りに植える作物を考慮することで、窒素を空気中から土壌に取り込み、それが作物の栄養となります。

自然界にはこのように作物が必要とする栄養を作り出すシステムが自然に備わっています。また逆に、作物にとって弊害となる雑草の生育を抑えるシステムもあります。私がなぜこれらの解決策を「種」に結び付けているかというと、種の中にこそ雑草や害虫、病気などに対応できる力が備わっているからなのです。

また別の方法としてSRI 農法(※)という稲作栽培があります。慣行農法との差は一目瞭然です。

基本的に種と土壌の中に解決策があるのです。私たちが必要なのは生きた土壌です。慣行農法の土は、窒素肥料や他の化学肥料、農薬の大量投入により、瀕死の状態にあると言っても過言ではありません。

遺伝子組み換えやハイブリッド種子(F1)の発展に伴い、多様性や種が多大な損失を被ってることに気付かされます。私たちは過去20 年の間に、遺伝子組み換え作物やハイブリッド種を世界中に広げてしまったのです。

 

 

 

現代農業による生物多様性の損失

 

 

このグラフが示すように、過去20 年間でトウモロコシや大豆の種類が大幅に減っています。大豆に至っては100%だったものが0.8%にまで激減しました。これらの損失は消費者や生産者にとって何の利益もありません。生産量は増えず、品質も下がり、価格も高騰するばかりです。

 

 

物多様性の損失を別の角度から見てみましょう。この図が示しているのは1903 年と1983 年の作物多様性の比較です。80 年の間に作物それぞれの種類が激減しているのが分かります。

 

 

コメの例を挙げてみると、写真の左側の黄色いコメはゴールデンライスといい、遺伝子組み換えされたコメです。これは特に開発途上国地域において、ビタミンA 欠乏症に悩む子どもたちのために開発された、プロビタミンA が組み込まれたコメです。これによって、野菜や肉や魚という食の多様性が、このコメ一つに取って代わってしまいました。このゴールデンライスに全ての栄養素を組み込んでしまおうというもくろみです。右が自然に育てられた普通のコメです。私たちは本当にこのような遺伝子組み換え作物が必要なのでしょうか? それとも、普通のコメに野菜を足す食生活を選びますか?

 

 

 

持続可能な農業の優位性

 



この図は二酸化炭素が作物の栄養にもたらす影響について示したものです。先日、南米ペルーで行われた国連気候変動リマ会議の内容をご存じの方も多いと思いますが、このまま空気中の二酸化炭素が増え続けると、許容量をはるかに超えてしまい、私たちの主な食料源である作物の栄養素低下につながるのです。

産業的農業から持続可能な農業に移行するには、生産者への教育が、より一層不可欠です。正しい知識や情報も必要です。特に、女性農家や今後の農業を担っていく青年への教育が大切になってきます。

では、それは本当に可能なのでしょうか? 多くの人が不可能だと言うでしょう。現在の世の中は、産業的農業のみが全人口を養うだけの十分な食料を、安価な値段で提供できると信じているからです。しかし、本当にそうでしょうか? 2011 年の国連環境計画(UNEP)のグリーン・エコノミー・レポートを見れば、その答えは明らかです。

 

 

この表は1年間に1,410 億ドルを投資する場合の数字です。1,400 億ドルというのは、先進国において政府が農家に支給する助成金の3 分の1 の金額です。ですから、世界的に見ればとても少ない金額なのです。この表ではその金額を、持続可能な農法と現在の慣行農法とに投資した場合、2050 年までに現れる予測を数字で示したものです。表を見れば明らかなように、生産量も生産高も雇用も土壌の品質も持続可能な農法の方が良い数字を出しています。逆に森林破壊は50%に激減させることができます。

これによって、持続可能な農法が科学的にも優れていることを証明できるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SEED FREEDOM
Protecting the purity, integrity and diversity of natural seeds.